成年年齢引き下げとクーリング・オフ制度

 

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた今年も、残すところあと1カ月となりました。来年こそは穏やかな年となることを願ってやみません。

 

さて、新年1月の第二月曜日は「成人の日」です。「国民の祝日に関する法律」では「成人の日」は「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」と定めています。

藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町のホームページを見てみますと、2022年の成人の日は、2001年4月2日から2002年4月1日生まれの方、つまり、2021年4月2日~2022年4月1日に20歳を迎える又は迎えた方を対象に「成人式(成人のつどい)」を開催する予定となっています。

では、2023年の成人式がどのように行われるかと調べてみると、藤沢市、茅ヶ崎市では2002年4月2日から2003年4月1日生まれの方、つまり、2022年4月2日から2023年4月1日に20歳を迎える方を対象に「はたちのつどい」を開催すると告知されていました。(筆者が確認した時点では寒川町の情報はありませんでした。)

 

なぜ、「成人式(成人のつどい)」の名称が「はたちのつどい」に変更されるかというと、皆様ご存じのとおり、成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日から施行されるためです。2022年4月1日の時点で、18歳以上20歳未満の方(2002年4月2日から2004年4月1日生まれまでの方)は、その日に成年に達することになります。2004年4月2日生まれ以降の方は、18歳の誕生日に成年に達することになります。

 

これまで憲法改正国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢など、国政上の重要な事項の判断に関して、18歳以上を大人として扱う政策が先行してきましたが、市民生活に関する基本法である民法においても、18歳以上の人を大人として取り扱うこととなります。18歳、19歳の若者の自己決定権を尊重することにより、その積極的な社会参加を促すことが期待されています。

 

成年年齢の引下げによって、18歳・19歳の方は、親の同意を得ずに、様々な契約をすることができるようになります。例えば、携帯電話を購入する、一人暮らしのためのアパートを借りる、クレジットカードを取得する(支払能力の審査の結果、クレジットカードを取得できないことがあります。)、ローンを組んで自動車を購入する(返済能力を超えるローン契約の場合、契約できないこともあります。)といったことができるようになります。

また、親権に服することがなくなる結果、自分の住む場所(居所)や進学、就職などの進路決定についても、自分の意思で決めることができるようになります。もっとも、進路決定について、親や学校の先生の理解を得ることが大切なことに変わりはありません。

そのほか、10年有効パスポートの取得や、公認会計士、司法書士、行政書士などの国家資格に基づく職業に就くこと(資格試験への合格等が必要です。)、性別の取扱いの変更審判を受けることなどについても、18歳でできるようになります。

ちなみに、お酒やたばこに関する年齢制限、公営競技(競馬、競輪、オートレース、モーターボート競走)の年齢制限については、健康被害への懸念や、ギャンブル依存症対策などの観点から20歳のまま維持されます。

 

民法上の成年年齢の引き下げは、18歳・19歳の若者の自己決定権が尊重されるという前向きな捉え方ができる一方で、消費者被害の拡大も懸念されています。民法では、未成年者が親の同意を得ずに契約した場合には、原則として、契約を取り消すことができるとされています(未成年者取消権)。未成年者取消権は未成年者を保護するためのものであり、未成年者の消費者被害を抑止する役割を果たしてきました。

成年年齢を18歳に引き下げた場合には、18歳・19歳の方は、未成年者取消権を行使することができなくなるため、悪徳商法などによる消費者被害の拡大が心配されています(なお、2022年4月1日より前に18歳・19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は、施行後も引き続き、取り消すことができます。)。

これに対し政府は、小・中・高等学校等における消費者教育の充実や若者に多い消費者被害を救済するための消費者契約法の改正(取り消しうる不当な勧誘行為の追加、無効となる不当な契約条項の追加、事業者の努力義務の明示等)、消費者ホットライン188の周知や相談窓口の充実などの環境整備に取り組んでいます。

 

この機会に新成人だけでなく皆様に消費者として改めて知っておいていただきたい制度に「クーリング・オフ制度」があります。

訪問販売、訪問購入、電話勧誘販売などのように不意打ち性の高い販売方法、マルチ商法や内職商法のように特殊な販売方法では、消費者は冷静に判断できないまま契約してしまうことが起こりがちです。

そのため、特定商取引法では契約後も一定期間、消費者に頭を冷やして考え直せる機会(クーリング・オフ期間)を与えています。この期間内に書面で事業者に申し出れば、無条件で契約を解除することができます(事業者は、消費者に損害賠償、違約金の請求はできません。) 。

 

なお、店舗での購入、通信販売(新聞・テレビ・インターネット等広告から、郵便・電話・電子メール等の通信手段により申し込みを受ける販売)には、クーリング・オフ制度はありませんので注意が必要です(通信販売は返品制度が利用できる場合があります。)。携帯電話等の契約については、電気通信事業法の初期契約解除制度や確認措置による契約解除ができる場合があります。

 

クーリング・オフの手続きには、内容証明郵便を利用するのが一般的です。内容証明郵便とは、法律に定める「内容証明制度」を利用した郵便物です。通常の郵便物との違いは、日本郵便(JP)が「その内容の文章をいつ差出人が発送したのか」証明する点です。この郵便は書留となりますが、さらに配達証明を付す事により「その手紙が相手に届いた」という事実も、公的に証明されます。特にクーリング・オフでは、期間内に契約解除の通知を発信した事実を証明する必要があるので内容証明郵便を利用するのが適切です。

 

クーリング・オフなどの内容証明郵便作成の手続き等には、お近くの行政書士がお力になれます(ただし法的紛争段階にある事案に関わるものを除く)。ご自身や身近な方が契約でお困りの方は、ぜひお近くの行政書士にご相談ください。

 

残り少ない本年そして来年の皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。