原状回復をめぐるトラブルとガイドラインの公表について

 

今夏は平年に比べ涼しい日が多かった気もしますが、9月になってもまだまだ
熱中症などに注意の必要な日々がしばらく続きそうです。
さて、先月、8月16日に民間賃貸住宅の賃貸借契約に関し、国土交通省住宅局より、
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」が公表されました。
賃貸住宅の賃貸借契約に関するトラブルは、近年、更新料の問題、敷金・礼金の問題など
増加傾向にあり、原状回復費用の負担についてのトラブルも増加しているようです。
そこで、これまでのガイドラインの見直しが行われ、変更や記載内容の補足、また、
「Q&A」や「裁判例」なども追加され、再改定版として公表されました。


このガイドラインは、原状回復費用の負担についての詳細な指針や、契約時の
注意事項など、賃貸人・賃借人そして仲介業者等、どの立場でも活用できる
内容になっており、トラブルを未然に防ごうという目的で作成されています。
ところで、「原状回復」とはいったいどんな意味なのでしょうか。
一般的には、「ある事情によってもたらされた現在の状態を、本来の状態に戻すこと」
をいいます。
それに対して、このガイドラインでは、
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、
善管注意義務違反、その他通常の使用を超える使用による損耗・毀損を復旧すること」
と定義し、「原状回復」が「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ことを
明確に示しています。
定義の内容を簡単にご説明しますと、賃貸借契約終了時(退去時)にリフォーム代や
修繕費用を賃借人が必ず全額負担しなくてはならないのではなく、賃借人がわざと
壊した(汚した)とか、過って壊して(汚して)しまった、また本来すべき注意を怠って
壊して(汚して)しまった、通常の使用を超えるような使用頻度や方法などで
壊して(汚して)しまった、等の場合に賃借人が原状回復費用を原則負担しましょう、
ということなのです。(原則ですので、例外ももちろんあります。)
ただし、賃貸借契約時(入居時)には、退去時にどの程度損耗・毀損するのか、
どの程度、原状回復費用が必要になるのかなどを想定することは難しいといえます。
そして、いざ賃貸借契約が終了し退去するときになって、
「え、こんなに修繕費用を請求されるの?」
と驚いてしまうケースが多々あるようです。
そうした原状回復のトラブルを未然に防ぐことを目的に、このようなガイドラインが
公表されているのです。
次に、賃借人として一般的にどのようなことに注意したらよいかということを、
①契約時(入居時)、②契約中(入居中)、③契約終了時(退去時)に分けて
お話したいと思います。
①契約時(入居時)
賃貸借契約を締結する際、仲介業者等から物件はどのような状態であるのか、
また、退去時原状回復費用の負担についてはどのような約束事になっているのか等、
書面にて詳しく説明してもらうとよいでしょう。その他賃料や更新時に必要となる
費用なども確認し、納得の上で、契約を交わすことをおすすめします。
また、入居時、家具などを運び入れる前に部屋の写真を撮っておきましょう。
できれば仲介業者等の立会いのもと、入居前から傷が付いている箇所や
破損している箇所などをチェックして、部屋の平面図などがあればそこに
記載をして仲介業者等に確認のサイン等をもらっておくのもよい方法のひとつです。
(仲介業者等が用意してくれる場合もあります)。
もちろん、賃貸借契約書や重要事項説明書等の書面は、賃貸借契約が終了するまで、
きちんと保管しておいてください。
契約時に退去することまでのことを見据えて考えておくことが、後のトラブルを防ぐために
重要といえます。
②契約中(入居中)
もうすでに契約をして入居している方は、もう一度、契約書や重要事項説明書に
目を通してみてください。
そしてよく理解できないことなどは仲介業者等に尋ねてみるとよいでしょう。
「もう契約してしまっているから・・・」ではなく、今からでも正確に理解しておくのも
大事なことなのです。
③契約終了時(退去時)
退去するときも、入居時と同様、写真を撮っておくとよいでしょう。
もし、原状回復費用の負担を求められた場合、どこを修繕するのか、
見積もりはどのようになっているのかなど、必ず書面にて説明してもらった上で、
判断することも必要といえます。
写真を撮っておくことは、すぐに何かの役に立つわけではありませんが、
残念ながら何らかのトラブルになってしまった場合、証拠として役に立つ
可能性があります。
今回ご紹介した国土交通省住宅局から公表されているガイドラインは
153ページにもおよぶものですが、とてもわかりやすく、役に立つ情報が
多く掲載されています。ご一読されることをおすすめします。
最後に、賃貸借契約書にかかわらず、「契約書」というものは、
一般にその文言や内容が専門的で難しい場合があります。
しかし、正確に理解し、納得の上で契約書を交わさないと、
後々大変なトラブルを抱えることにもなりかねません。
「契約書」に関してわからないことなどがありましたら、
是非、私たち行政書士にご相談ください。