デジタル資産と相続について

 

近年、電子マネーによるキャッシュレス決済の急速な普及により、買い物や移動の際に財布を必要とせず、スマートフォンを持ち歩くだけで済むという方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。多くの企業が、独自の電子マネーやポイント等でユーザーの囲い込みをして、そのサービスを使い続けてもらえるように、キャンペーンの展開や利便性の向上を常に行っております。

 

しかし便利な反面、ユーザーが亡くなった場合、相続人等への引継ぎがスムーズに行かない場合があります。今回はこうした、デジタル資産と相続の関係について、お話しさせていただきます。

 

大手企業が運営している電子マネー等の中には、残高に現金等をチャージした後、会員登録をして使用する本人(被相続人といいます)が亡くなった場合、残高が失効して使用できなくなるという説明を、明確に会員規約で規定しているものがあります。実際には、死亡(相続開始といいます)の後、直ちに失効するわけではないので、そのまま使い続けてしまう場合もあるかもしれませんが、そうした行為は、規約違反に問われる危険性があります。

 

但し、消費者と事業者との契約について定めた消費者契約法では、一方的に消費者の利益を害する契約条項は一定の場合に無効となる旨が定めてあり、ユーザーが死亡した場合、電子マネー等の残高が失効する旨の契約条項は違法ではないか、という議論もなされております。

 

こうした議論も踏まえ、最近では、規約に基づく所定の手続きを踏むことによって、相続により承継できる電子マネー等も徐々に増えてきておりますが、依然として相続により失効してしまう電子マネー等も、現状では未だ多く存在しております。

 

例えば、一定期間使用せずにいると、IDとパスワードの入力を求めてくるような電子マネー等の決済システムにおいて、IDとパスワードが判明しない場合は相続により失効する旨の規約があるときは、相続人は所定の手続きを踏むことができないため、残高を諦めざるをえないということになります。

 

こういった電子マネーのトラブルを未然に防ぐために、事前に多額の現金をチャージせず、使い切ったら使う分だけ、再度チャージをしておくことをお勧めいたします。また、厳重な保管が前提ですが、IDやパスワード、合言葉等をメモに残しておく事も効果的です。

 

一方、最近話題の暗号資産(仮想通貨)を相続する場合は、銀行の預金残高の払い出しと同様の手続きにより、一般的に被相続人の口座は解約され、換価された現金が代表相続人の口座に振り込まれます。なお、暗号資産を換価せずに相続人等に引き継がせる場合は、その相続人等に自分名義の暗号資産の口座を、被相続人の生前(相続開始前)に開設してもらう必要があります。

 

電子マネーや暗号資産等のデジタル資産には様々なものが存在しますが、一般的にデジタル資産の種類によって相続手続きは異なり、相続開始前に対策を講じないと失効等の不利益を被る場合があります。デジタル資産を含めて、相続手続き等でお困りの方は、相続手続きの専門家である行政書士に、是非お気軽にご相談ください。