飲み屋のツケは1年で時効・・・じゃなくなる?!(民法改正の話)

 

「民法」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
「法律か・・・自分にはあまり関係がない」という方が多いでしょうか。
「知っているよ、飲み屋のツケは1年で時効だよね」とか「相続はまず夫(妻)が半分、で子供たちは残りの半分を頭数で割るんですよね?」などと仰る方も多そうですね。
「時効」などは、「勘弁してよ、アレはもう時効だよ」なんて言い方で、普段の会話でも耳にしますね。
さてこの民法、実は今、大改正が行われつつあります。
今回はそれをできるだけ身近な話題として、わずかですがご紹介したいと思います。


法務省が「民法(債権関係)」の抜本的な見直しを行う方針を決定したのが、平成18年です。以来、何度も議論が繰り返され、色々な案が現れては消え、または修正され、8年間もの月日が経過しました。
それが、今年の8月26日、ようやく「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」として決定されました。
もちろんこれがそのまま新しい民法になるわけではありませんが、実質的にはこの案がほぼ新しい民法の姿になるとみられています。早ければ来年の通常国会で可決され、数年以内に新しい民法が施行される見込みです。
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900227.html (法務省のページ)
法務省のページから、実際の案をご覧いただくと分かりますが、全64ページ、大項目だけでも39、細かい項目は約200と、項目数だけみても大改正であることが分かります。
当然全てをご紹介することはできませんので、「時効」「保証」「法定利率」の3つだけピックアップして簡単にご紹介してみたいと思います。
まずは、先ほども触れた「時効」について見てみましょう。
時効には、権利が消滅する消滅時効と、権利を得る取得時効とがありますが、今回改正が検討されているのは、消滅時効のほうです。
<現在>
・原則 債権 10年
・例外 職業別に短期の時効あり(下は一例)
 医師や薬剤師などの医療費 3年
商品の売買代金 2年
弁護士、公証人の報酬 2年
旅館や飲食店などの料金 1年(いわゆる「飲み屋のツケは1年」というのはこれに当たります)

<改正案>
・債権 下のいずれか該当するほうの年数
   ①権利行使できると知ったときから 5年
   ②権利を行使できるときから 10年
・現在の1~3年などの短い時効は廃止する
今は「これとこれは1年で、あれとそれは2年で・・・」と細かく管理する必要がありますが、改正案では廃止されて分かりやすくなります。しかし、そうすると何もかもが10年になってしまい長すぎるので、「知ってから5年」という規定も追加したようです。
近いうちに、「飲み屋のツケは1年」というのは古い常識になってしまいそうです。
次は、「保証」についてです。
いわゆる保証人、連帯保証人の話です。
<現在>
書面で保証契約を交わす必要あり
誰がなるかについて制限はない(未成年等でなく資力がある者なら誰でも可)

<改正案>
・事業のための保証人になる場合、「公正証書で」保証の意思を表す必要あり
(ただし、事業主が会社等で、保証人がその取締役等の場合は適用外)
・事業のための保証人になる者に対し、事業主は自己の財産と収支その他について情報提供をすること(事業主が情報提供せず、債権者も必要な確認をしていない場合は、保証人をおりることが可能)
「うっかり保証人になって、多額の支払いを迫られた」などという話をお聞きになったことがあるかと思います。よく分かっていない人に強いて保証人を引き受けさせることが問題視されている他、保証人という制度そのものに対する疑問の声もあがっているようです。
改正案では、保証人を取ること自体は禁止しなかったものの、保証人を保護する観点から、詳しい情報を提供することはもちろん、場合によっては保証人に保証契約の解除権を与えました。また、その会社の取締役などはともかく、それ以外の第三者を保証人とする場合は、公正証書による意思表示を必要とするなど、より厳格な方式を求めており、先述の声を意識した内容となりました。
最後に「法定利率」を見て、今回は終わりにしたいと思います。
利息が発生するがその利率が定められていない、そのような場合のために、民法は利率を定めています。これを法定利率と呼んでいます。
<現在>
法定利率 年5%

<改正案>
法定利率 年3%、ただし3年ごとに見直し(変動制)
5%というのは、民法制定時(明治)の利率を参考に定められたものですので、なんと100年以上も変わっていないということになります。現在の市中の利率と比べてもだいぶ差があります。また、変動制ということになれば、今後は100年以上も同じ利率のままということもなくなり、その時点での経済の実態に近い数字になるでしょう。フランス、ドイツなどでは既に変動制をとっているという点も参考にしたものと思われます。
なんだそれだけか、という声が聞えてきそうなところですが、実は交通事故などで支払われる損害賠償額が増えるケースがあるとみられています。
(将来も働けるはずの方を働けなくさせてしまった場合、将来得たはずの収入(逸失利益)を賠償することになります。詳しい説明は省きますが、このとき将来までの期間分の利息を差し引いて(中間利息控除)支払います。その利率には民法の法定利率が使われていますので、5%から3%に引き下げられると、当然差し引く額も減り、結果受け取る損害賠償額は増額する、ということです。)
そうなると、保険会社としては、増加するであろう損害賠償額を原資もなく支払い続けることは厳しいでしょうから、加入者が支払う保険料が値上がりすることが考えられます。私たちの家計にも影響がありそうです。
今回はたった3つしかご紹介できませんでしたが、他の改正部分もまだまだたくさんあります。民法は、民間の広い範囲にわたるもので、関係する他の法律の基本となっています。その条文が大量に変わるわけですから、影響は大きいと思っています。
契約書なども、改正後は今までの雛形をそのまま使うのではなく、新しい条文と照らし合わせて、必要に応じて手を入れたり、作り直したりということが必要になるでしょう。
今後も改正の行方を注視していきたいところです。