遺言作成のすすめ

 

 日頃、行政書士として皆さまの相続手続きのお手伝いやご相談を受けていると、亡くなられた方が遺言を遺してくれていれば良かったのにとか、遺言を書くことで、悩みが解決するのではないのかなという場面に遭遇します。

 そうは言っても、皆さまは「うちは財産がないから大丈夫。」とか、「家族みんな仲が良いから大丈夫。」と思っていらっしゃいませんか。

 遺言は本当に財産がなければ無くてもいいものなんでしょうか。そして、仲が良ければ無くても問題ないものなんでしょうか。

 そもそも遺言とはどういうものでしょうか?

 遺言とは、簡単に言ってしまえば、亡くなられた方が自分の死後、自分の財産等をどうしてほしいか書いて遺したものですよね。そして、法的に効力が及ぶ遺言は民法できちんと規定されています。つまり民法に則った通りの方法で遺さなければ、効力が及ばないことになってしまいます。面倒くさいです。でも、遺言の効力が発生するのは、遺言者が亡くなった後のことですから、書かれた内容で本当に良いかどうかの確認が取れません。だからこそ、事前準備の段階で作成に細かく規定があると考えたら、仕方のないことと考えて頂けると思います。

 では、遺言にはどのようなことを書いておけると思いますか。これも民法やその他の法律に書かれているのですが、主だったところをちょっと箇条書きにしてみます。

・相続分の指定および指定の委託(民法902条)
・遺産分割方法の指定および指定の委託、5年を限度とする遺産分割の禁止(民法908条)
・特別受益の持戻しの免除(民法903条第3項)
・子の認知(民法781条第2項)
・相続人の廃除・その取消し(民法893条、894条第2項)
・未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
・祭祀承継者の指定(民法897条)
・相続人の担保責任の減免・加重(民法914条)
・遺贈(民法964条)
・遺言執行者の指定および指定の委託等(民法1006条、1016条~1018条)
・遺留分減殺方法の指定(民法1034条)
・信託設定(信託法2条、3条)
・生命保険金受取人の指定・変更(保険法44条)

 その他一般財団法人の設立行為等色々と指定することができます。長々と書きましたが、遺言者は遺留分の規定に違反しない限り、遺言によって自由に自身の財産の処分について指定することが可能なのです。

 遺言を遺しておこうと思う方の一番の理由は、家族間での争いを防止するためだと思います。ですがそれだけではありません。財産の多少にかかわらず、日本では、亡くなられた方に遺言がなければ、相続人全員の合意による遺産分割協議により分けることになります。(合意ができなければ、遺産分割調停、審判と続くことに・・・)

 相続人の中に、行方不明の方がいたり、認知症等で判断能力がない方がいたら、協議ができませんよね。協議ができない以上、いつまでたっても相続手続きが出来なくなってしまうことにもなりかねません。

 また、先ほど遺留分の規定に違反しない限り、自由だと書かせていただきましたが、ご夫婦にお子さんがおらず、ご両親が既に他界されていらっしゃる場合、ご夫婦の相続人は配偶者とご兄弟になりますが、この兄弟相続の場合は、遺留分の規定がありません。つまり、ご夫婦のどちらかが亡くなったら、その配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言さえあれば、ご兄弟との遺産分割協議をせずに、遺産を承継できるのです。

 このように、相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺言にしておくことで、相続人の煩雑な手続きが少し楽になります。遺されたご家族にきっと感謝されるのではないでしょうか。

 実際に遺言を書いてみようと思われた方は、是非お近くの行政書士に相談してみてくださいね。