新年明けましておめでとうございます。
皆様にとって幸多き一年となりますように心よりお祈り申し上げます。
今年は巳年(みどし)です。また干支(えと)は、十干(じっかん)の「乙(きのと)」と十二支(じゅうにし)の「巳(み)」が組み合わさった、「乙巳(きのとみ)」です。
乙巳の年は、木の要素を持つ「乙」と、脱皮を繰り返す不老不死のシンボルとしての「巳」の意味合いから、「復活と再生」「変化」「実を結ぶ」「再生や変化を繰り返しながら柔軟に発展していく」年になると考えられるそうです。
さて、今年最初のコラムは『相続人不存在と遺贈による寄付』についてお話しいたします。
近年、いわゆる老後の「おひとり様」と言う言葉を耳にする機会が増えてまいりました。この「おひとり様」の中で、法律的に相続人がいない状態のことを、今回のテーマである『相続人不存在』といいます。
【相続人がいないとどうなるのでしょうか?】
民法959条では、分かりやすく表現すると「相続人がいない人が亡くなった(相続人が存在せず、遺言書や特別縁故者もいない)場合は、亡くなった人の財産は国庫に帰属する」と定められています。
相続人不存在の事例は年々増加しており、国庫に納められる財産も平成30年度には概ね628億円近くだったものが令和4年度には約770億円近くに及ぶなど増加傾向にあります。(最高裁判所サイト内、裁判所の決算より参照)
【「相続人がいない人」とはどういう方でしょうか?】
◦配偶者がいない(未婚独身、死別、離別)
◦直系尊属(そんぞく)がいない(父、母、祖父母等)
◦直系卑属(ひぞく)がいない(子、孫等)
◦特別縁故者がいない(内縁の配偶者、生前に親しい関係にあった者など)
上記全てに当てはまる場合には、相続人がいない可能性が高くなります。
もしも、自分に相続人がなく、特別に親しかった方もいない場合にはどうしたら良いのでしょうか。何も手を打たないうちに不幸にして亡くなってしまった場合には、前述のとおり自分の財産を国に帰してしまうことになります。一方で、自分の元気なうちに福祉団体などに寄付することも考えられますが、先々のことを思うとなかなか思い切った金額を寄付することも難しいのではないでしょうか。
ここで、ご自分の意思による財産の遺し方という意味で、遺言書を活用した『遺贈による寄付』という選択をご検討されてみてはいかがでしょうか。
【『遺贈による寄付』とはどうやって行えばよいのでしょうか?】
遺贈とは、遺言書により自分の財産を遺す相手を指定することです。以下の手順により進めていきます。
まずは寄付をする相手方(団体)を探します。例えば以下のような団体があります。
◦日本赤十字社・日本赤十字看護学校
◦ユニセフ
◦あしなが育英会
◦国境なき医師団
◦赤ちゃんポストゆりかご基金
◦日本盲導犬協会
◦神社や寺院、教会などを運営する宗教法人
など
寄付先が決まりましたら、次は遺言書の作成をいたします。遺言書の中に寄付先、金額等を記します。遺言書の作成にあたっては、事前に寄付先の受贈意思と手続きの確認が必要です。ここで注意しなければならないのは、ほとんどの団体は、原則として現金による寄付のみ受け付けていることです。つまり、現金以外の不動産等の財産は換金しなければ寄付ができません。
そこで必要なのが寄付をする旨が書かれた遺言書の内容を確実に実行する者、つまり『遺言執行者』の指定です。遺言執行者とは、遺言書に記載されている内容を、亡くなった方に代わって実現する役割を担う者です。遺言執行者は専門家に限らず指定することができますが、ご自分の意志をよく理解して確実に実行してくれる信頼できる者を指定することが重要です。遺言執行者が決まりましたら、その旨を遺言書に記載いたします。
ここで気を付けていただきたいのが、遺言書には一部の身分関係に関する事項を除き、原則として財産の処分に関する事項しか記載ができない(効力がない)ということです。
従いまして、おひとり様が亡くなった場合の諸々の手続き(葬儀、埋葬、病院代の清算など、総じて「死後事務」といいます)については財産処分に該当せず、遺言執行者はこれらの死後事務を行うことができません。
ここで、おひとり様がご自分の死後事務を誰かに実行してもらうために、遺言執行者に指定した者を受任者としてと、遺言書作成と同時に死後事務委任契約(一定の金銭を預けて死後事務を行ってもらう契約)を結んでおくという方法があります。この方法によれば、遺言執行者と死後事務委任契約の受任者が同一であり、遺言並びに死後事務のスムーズな執行が期待できます。
そして、これらの書類作成をいずれも『公正証書』としておくことによって、おひとり様がお亡くなりになった後のことは、寄付を含めて全て公的な証書をもとに確実に実行されます。ここまで準備が整えば、もう安心です。おひとり様の財産はおひとり様の意志に基づいて、世の中のために役立っていくことでしょう。
新年早々、死後の話など縁起が悪いと思われた方もいらっしゃったかと思いますが、今回のテーマ『相続人不存在と遺贈による寄付』こそ、「おひとり様の残された財産が寄付により活かされ形を変えて復活する」と言う意味では、乙巳の年の「復活と再生、変化、実を結ぶ」に繋がるのではないか、と考えお話しさせていただきました。
それにしましても、「寄付ひとつするのも大変だ」とお感じになられたかたも多いと思います。遺言書や死後事務委任契約書の作成につきましては、われわれ行政書士も日頃から多くのご相談をいただいております。遺贈による寄付についてもっと詳しく知りたい、遺言書の書き方を教えてほしいなどのご相談は、是非お気軽に神奈川県行政書士会湘南支部へお問合せください。
本年も神奈川県行政書士会湘南支部は皆様のお役に立つため、より一層の研鑽を重ねて参ります。本年も本コラムをご愛読いただけますよう何卒宜しくお願い申し上げます。