先日(令和元年7月1日)、民法改正による新しい規定が施行され、遺産分割に関していくつかの新制度が出来ました。そのうち、多くの方に役立ちそうな身近な2つの新制度についてご紹介します。
其の1 ”遺産分割前でも預金の払戻しが出来るようになりました!”
ご家族の誰かが亡くなり、相続が発生すると、相続人であるご遺族は、まず葬儀費用の支払いが必要になります。また、亡くなった日までの入院費や施設入居費などの支払いもあったり、生活費を亡くなられた方の預金口座から支出していた場合は、当面の生活費も必要になるでしょう。このように、相続発生と同時にすぐに必要な資金がいろいろと発生してきます。
〈 これまでは・・・ 〉
亡くなった方の遺産を相続人でどのように分配するかの話し合いを【遺産分割協議】といいますが、これまでは遺産分割協議がまとまらないと、原則、相続人単独では被相続人の預金を引き出すことは出来ませんでした。
〈 これからは・・・ 〉
一定額であれば、家庭裁判所の許可を得ずに、相続人全員の印鑑がなくても、相続人の一人が単独で、被相続人の預貯金を払い戻すことが出来るようになりました。
〈 注意!! 〉
単独で払戻しが出来る金額は、
相続開始時の預金残高 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分 です!
ただし、ひとつの金融機関あたり上限150万円まで となっています。
其の2 ”婚姻期間20年以上の夫婦間の自宅の贈与又は遺贈は、遺産の先渡しとして計算しないことになりました!”
民法上、相続人に対して贈与又は遺贈があった場合、原則として、その贈与・遺贈を受けた分も遺産に加えて相続分を計算し(持ち戻し)、贈与・遺贈を受けた分を差し引いて取得分を決めることとされています。
〈 これまでは・・・ 〉
長年連れ添った夫婦で、夫が妻の老後を心配して自宅を生前贈与しているようなケースでも、遺産の先渡しとて扱われ、夫亡き後に妻が遺産分割において受け取る財産が、贈与を受けた分減らされていました。結局、贈与の有無に関わらず、最終的な取得額に変わりがありませんでした。
〈 これからは・・・ 〉
婚姻期間が20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与又は遺贈は、遺産の先渡しを受けたものとして取り扱わないことになりました。つまり、20年以上連れ添った妻に自宅を贈与した場合、自宅が遺産分割の対象ではなくなるため、結果として妻はより多くの財産を相続することが出来るようになります。「妻の生活を守りたい」という夫の思いが、遺産分割にも反映できるようになりました。
これらの新制度は、2018年7月6日に成立した、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律によるものです。この改正は1980年以来、約40年ぶりの大幅な相続法の見直しとして注目されています。改正の背景としては、社会の高齢化が進み、相続開始時の配偶者の年齢も高齢化し、その保護の必要性が高まってきたことが挙げられ、改正の主な内容は、残された配偶者の生活を守るという観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策が多く盛り込まれています。そのほかにも、遺言の利用を促進し、相続を巡る争いを防止するという目的で、自筆証書遺言の方式を簡単にするなど、様々な改正項目を含んでいます。
相続が発生したけど何をしていいか分からない、遺産分割協議書をつくる必要がある、家族のために遺言を書いておきたい・・・など、相続・遺言に関することで何かお困りのことがありましたら、ぜひお近くの行政書士にお気軽にご相談ください。