「終活」-家族のために残す遺言書

 

秋も深まり、一年も終わりに近づいてきました。
年の暮れに向けて、年賀状、または喪中はがきの準備をしたり、
また年末の大掃除までに普段処分しにくい大型ゴミの処分に取りかかったり、
ガス周りの油汚れを今のうちに・・・なんていう方も多いと思います。
12月になってからですと、忘年会をはじめとした各種イベントも多く、
ついつい手が回らないままになってしまいがちです。
やはり今月のうちから、少しずつ手をつけていくのがよいですね。
さて一年の締めくくりの準備だけでなく、私たち自身の人生の
終わり準備については、何かお考えでしょうか。
最近では「終活」などともいわれるようで、この言葉は昨年の
新語・流行語大賞でトップテンに入りました。


終わりの活動、つまり人生の終わり仕度のことで、葬儀やお墓の準備、
また残された方の生活を守る方法や、財産の行方についての計画を
立てておくことをいうようです。
それらを書き込むことができる「エンディングノート」というような
ものも売っているようです。
葬儀やお墓、家族の生活については、自分が元気なうちに
準備しておくこともできますのでよいでしょう。
しかし、財産の行方については、生前に分けたりあげたりして
何らかの処置をしておく以外は、死亡後の相続等によることになります。
そのため、自らその準備をするには遺言書を残す必要があります。
遺言書は、法律により方式が定められていますので、
例えば先ほどのエンディングノートでは遺言書としては
認められない場合があります。
今回は、この遺言書についてお話ししたいと思います。
イギリスには「遺言書なきは紳士の恥」という言葉があるそうです。
身支度をきちんとする英国紳士の姿が思い浮かぶようです。
イギリス・アメリカの相続事情を伝え聞くと、
やはり遺言書を用意している方は多いようです。
では日本はどうかというと、戦前はいわゆる家督相続でしたので、
基本的に長男が全て相続していました。
このため、遺言書といえば何か事情がある場合に使われるような
例外的な存在でした。
それが戦後の民法では、各個人の相続となりました。
そこで遺言書の重要性が高まりました。
この新しい相続と遺言書の考え方が浸透してきたのか、
平成元年の遺言(公正証書)は約4万1千件でしたが、
平成22年は約8万2千件となっています。
増えてはいますが、日本の人口等から考えると、
まだまだ遺言書の無い方のほうが多い、と言えるでしょう。
その理由としては、難しそうとか、色々考えられると思いますが、
一つには、遺言というのは将来に対する備えですから、
今日・明日の急ぎの問題ではないためどうしても意識が薄くなりがちである、
それで腰が重い、というのがあると思います。
しかし、相続が始まったときには、自分はもういないわけですから、
それでは遅いわけです。
一方で、積極的に「遺言書を作りたい」という方々からは、
遺言書の必要性を感じるという声を聞きます。
どういうことかというと、この中には、実際に身内が亡くなって
相続を体験した方たちがいるわけです。
遺言書がない状況で、書類をたくさん集めたり、あちこちの親族に連絡して
お願いしたり、親族から色々言われたり、役所や銀行に何度も行ったりで、
苦労するうちに、「思ったより大変だ、せめて遺言書があったら・・・」
ということを実感するのでしょう。
だから「私のときはスムーズに進むように遺言書を残しておいてあげたい」
ということになるようです。
相続手続きの流れを少し見てみましょう。まず遺言書の有無を確認します。
遺言書があった場合は、家庭裁判所の「検認」という手続きを受ける
必要があります(一ヶ月程度かかります)。
なお公正証書の遺言書であれば検認不要ですので、手間が一つ減りますし、
時間も節約できます。
次に、相続人と相続財産を調べます。
遺言書があれば相続人と財産は大体書いてあるはずですので、
調査は主に裏づけと漏れがないかの確認となります。
反対に遺言書がないと一から調べる羽目になるかもしれません。
それから、財産の分け方を決めます。遺言書があれば基本的には
それに従うだけです。
話し合いをしなくて済むので、精神的に楽になるというのも
見逃せない点だと思います。
遺言書がなければ民法で定められた割合の相続となりますが、
この割合というのはよく知られているとおり財産の「2分の1」とか
「3分の1」などという定め方ですので、不動産が主な財産だったりすると、
分け方に困ることになります。
ほとんどの場合、全員で話し合いをしなければなりません。
場合によっては大変もめる可能性もあるところで、皆さまもよくご存知かと思います。
最後に、財産を分けます。
預金は払い戻したり、不動産は登記を行うことになります。
その他に名義変更等が必要なものはそれをします。
特に金融機関の手続きは面倒だと思われる方が多いところだと思います。
ここでも随分書類仕事をすることになりますが、遺言書があると、
用意する書類等が少なくて済む手続きもありますので、やはりあるほうが
楽だと言えます。
また、遺言書で遺言執行者を指定しておけば、全体としても、
手続き上も円滑に進むことが期待できます。
遺言執行者は相続人でもなれます(専門家を選んでもよい)。
遺言書のある相続と、ない相続とを比べると、残された家族にとって
スムーズに相続を終えられるのはどちらか、ということが分かるのでは
ないかと思います。
財産が多いとか、特別な事情があるという方ばかりでなく、
いわゆる「普通の」方でも、残された家族のことを考えて、
遺言書を作るきっかけになればと思います。
その際は、財産の分け方を熟慮するのはもちろんですが、
公正証書による遺言書や遺言執行者なども検討してみてください。
なお、遺言書など、法的書類の作成(とその相談)は、
私たち行政書士が専門とする業務の一つです。
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