障害のある子の「親なきあと」に備える

 

2013年に障害者総合支援法が施行され、障害がある方の生活を支える仕組みは整えられつつありますが、その類型に関わらず、障害がある方のほとんどは自宅で生活しており、現状では親に大きな負担がかかるケースが増えております。

その親が亡くなった後、障害があるわが子はどうなってしまうのか。障害のある子の家庭にとって、この課題は切実です。これは「親なきあと問題」と言われており、当事者の障害の種類や程度だけでなく家族構成や財産など各家庭の状況も異なり、また抱える課題も多岐にわたるため、どこに何を相談すればよいのかわからないままに先延ばしになってしまうケースも多くあります。高齢者が高齢者を介護する「老老介護」に加えて、高齢の親が障害のある子の面倒をみる「老障介護」という言葉も聞かれるようになり、「8050問題」として、社会問題にもなっています。

介護疲れによる心中事件や家族共倒れなどの悲しいニュースが報道されるたびに、助けを求めることはできなかったのか、という世間の声がよく聞かれます。そのご家庭と社会を繋ぐ線が一つでもあれば、最悪の事態になる前に支援が受けられたかもしれません。ご近所関係、親戚、友人関係などのつながりを確立することが一番ですが、ここで、成年後見制度の利用を検討するという選択肢もあります。

 

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々を保護し、支援するための制度で、「成年後見人等」が、ご本人に代わって、不動産や預貯金などを管理(「財産管理」)し、身のまわりの世話や介護などのサービスや施設への入所に関する契約(「身上監護」)を行います。

成年後見制度には、大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。

法定後見制度は既に判断能力が衰えている方が対象となります。制度利用のためには家庭裁判所への申立手続きが必要となり、ご本人を支援する方(ご本人の判断能力の程度によって、後見人・保佐人・補助人)の人選は、最終的に家庭裁判所が行います。

一方、任意後見制度は、ご本人(委任者)の判断能力がしっかりしているうちに、将来的に判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ本人が信頼できる代理人(任意後見人)を決め、その任意後見人に代理権を付与する制度です。

この契約を結んだ段階では、代理人は将来の任意後見人として「任意後見受任者」と呼ばれます。ご本人の判断能力が低下した段階で受任者等が家庭裁判所へ申立てることにより「任意後見監督人」が選任され、その時点から任意後見受任者は「任意後見人」となって後見事務を開始します。

任意後見契約書は、法律上、公証役場において公正証書で作成することとなっています。また、契約の代表的な類型として「移行型」という形式があり、これはご本人の判断能力が実際に低下する前から、一部の事務の委託や生活状況の見守りを委任する「生前事務委任契約」や「見守り契約」を併せて締結する内容となっております。

この移行型を活用することで、ご本人の判断能力が低下する前後を含め、支援を途切れなく行うことができます。

 

では実際に、これらの成年後見制度は障害のある子のご家庭で、どのように利用できるのか検討してみましょう。

 

成人した障害のある子が、知的障害などですでに判断能力が不十分である場合は、法定後見制度の利用を検討します。子が未成年のうちは、親が親権に基づいて福祉サービスの利用契約や預貯金の管理を行うことができますが、成年に達すると親権に基づく代理権はなくなります。(実際には、親が元気なうちは後見人をつけずに、なんとかそのままの生活を続けられる方も多いようです。)

こうしたケースでは、親が70代を超え、親ひとり障害のある子ひとりの生活となったときに備えて、若い親族や第三者の成年後見人にバトンを引き継いでおくと、親が心身ともに衰えてしまっても、子の身上監護と財産管理を継続することができます。

 

一方、精神障害などの症状が現在は落ち着いて判断能力はあっても、将来に不安がある場合には、任意後見契約の利用を検討します。この際、移行型とすることによってご本人の生活状況の確認を定期的に行ってもらえるようにすると、親の心身の衰えによって子の生活状況に異変があったこと場合に、速やかに適切な対応をとってもらうことができます。

 

さらに、上記2つの選択肢に加えて、あるいは、まず最初に、親自身が任意後見契約を準備するという備えも考えられます。こちらも移行型として、任意後見契約の中で、自分の任意後見が始まったときには、子どもの成年後見の申立を他の親族や行政に働きかけてほしい旨を盛り込んでおくと、子どもの支援もバトンタッチすることができます。

 

このように成年後見制度を、家族からのSOSに対して、いち早く気づいてもらう方法として活用することもできます。

 

任意後見契約書の原案作成や公証人との調整には、行政書士がお役に立ちます。また、成年後見制度の普及に積極的に取り組む行政書士によって組織された「一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター」を通じて、お近くの行政書士を成年後見人の候補者としてご紹介させていただくこともできます。

 

ご自分の財産を障害のある子とその兄弟で取り分に差をつけて相続させたい、障害のない子に財産を預けて障害のある子のために使ってもらいたい、などのご希望がある場合には、遺言書や民事信託の契約の作成も考えられます。ご自分の家庭の状況にあった「親なきあと問題」の備えのために、ぜひお近くの行政書士にご相談ください。