行政書士法改正から考える行政書士の役割

 

2020年も残り1ヶ月となりました。東京オリンピック・パラリンピックの開催で盛り上がるはずの本年でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、想像もしていなかった形で年の瀬を迎えることとなりました。一日も早く事態が収束することを心より祈っております。

 

さて、来年は、行政書士を取り巻く環境にも変化が訪れます。昨年12月に一部改正された行政書士法が来年6月4日に施行となり、目的規定が「この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正化を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを目的とする。」と改められ、従前の規定に「国民の権利利益の実現に資すること」という文言が追加されます。

この改正は、行政書士の業務が多様化し、特定行政書士による行政不服審査の手続代理や成年後見制度における後見業務などを通じて、国民の公法上及び私法上の権利利益の実現に関与している実態に合わせたものです。

 

現在の日本社会全体を見渡してみると、社会の多様性は今後更に進展することが予想されます。経済のグローバル化や人口減少が進む中で、日本に暮らす外国人の総数は近年増加の一途をたどり、コロナ禍による一時的な停滞はあっても、今後もその傾向は維持される見込みです。国の施策としても、国籍や民族などの異なる人々が共に互いの違いを認め合い、対等な関係を築きながら生きていける多文化共生社会の実現を目指しています。

また、高齢者、障がい者、LGBT等、社会的に弱い立場になりがちな少数派の方々にとっても暮らしやすい社会とするために、一人ひとりの権利をしっかりと守る仕組みも重要な社会的課題になると考えられています。さらに、情報化やデジタル化が進展して世の中が便利になる一方で、目まぐるしい変化への対応が困難な方々が取り残されて、新たな格差が生まれてしまうことも懸念されております。

 

私たち行政書士は、長年にわたり、外国人の方々の在留資格関係手続のご相談に応じ、申請書類の作成や出入国在留管理局への申請取次などのお手伝いしてまいりました。また、高齢者や障がい者の権利擁護に必要な成年後見制度においても、制度を必要とされる方々へのご相談に応じ、また実際に成年後見人等として活動するなど、制度が始まった当初より、実直に取り組んでまいりました。今回の行政書士法の改正は、これまで行政書士が取り組んできた、上記のような権利擁護・権利保護への実績や社会的役割が一定程度評価され、明文化されたという一面もございます。

 

昨今、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が多くの方々に広まっていることから、政府や地方公共団体は、個人向け、事業者向けに次々と様々な支援策を創設、実施しています。この記事をご覧になっている皆様にとっても、一人10万円の特別定額給付金の申請手続きをなさったことが、まだ記憶に新しいことと思います。私たち行政書士も給付金の申請に関するご相談に対応させて頂くほか、日頃より成年後見人等の立場でお世話をさせて頂いている方々の給付金について、ご本人に代わって申請・受給の手続きを行った例などもあり、ご本人の権利の実現を通して、改めて社会的役割を担う誇りと責任を実感する場面などもございました。

 

私たち行政書士は、「たよれる街の法律家」というキャッチフレーズを掲げて、国民と行政の懸け橋として、皆様に寄り添った活動を展開しております。今後ますます多様化、複雑化する社会において、地域に暮らす皆様一人ひとりの生活の安心や幸せのために、専門知識と能力を備えた国家資格者としての社会的役割を果たしていく決意を新たにいたしまして、本年のコラムを締めくくらせていただきます。

 

終わりになりますが、先行きの見えない混沌とした時代のなかで、少しでも皆様のお役に立てるように、残り少ない本年そして来年の皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。