行政書士と司法書士

 

私たちは「行政書士」ですが、ときどき「司法書士」と間違われることがあります。

少し理由を考えると、まず、どちらも〇〇書士といい、名前が似ています。
そして、両者の看板を見ると、どちらにも「遺言」「相続手続」などとあって、仕事内容もなんだか同じもののように見えます。

少し歴史をひも解いてみると、実はこの2つ、もともと同じ制度から枝分かれしているのです。
だから似ていても当然なのかな、と早合点してしまいそうですが、もう少しだけ歴史にお付き合いください。

我が国が近代国家として成立していく過程で、近代的な法律が整備され、それに伴い、法律関係職の制度も整備されました。
次の3つは同時に整備されました(明治5年司法職務定制)。
・証書人(今の公証人)
・代言人(今の弁護士)
・代書人(今の行政書士など)

証書人(公証人)は、事実などを公的に証明・認証する職です。公正証書を作成したことがある方などはご存じのことかと思います。

代言人は、現在でいう弁護士です。これはイメージしやすいと思います。
しかし、国は、弁護士だけでなく、もう一つ「代書人」という制度も用意した、ということになります。
当時、自分で裁判を行なえない者は弁護士に依頼するか、または代書人に訴状などの書類を作ってもらうことが想定されていたようです。

「代書人」を辞書(大辞泉)で調べてみました。
1 官公署などに提出する書類の代書を業とする人。
2 司法書士の旧称。
3 行政書士の旧称。
とあり、代書人は行政書士・司法書士共通のルーツであることが分かります。

代書人の中には、裁判所の許可を受けて裁判所内に事務所を設け、訴状や登記書類(戦前は、裁判所が登記を扱っていました)の代書を専門とする者も現れました。
これは、その後、正式に制度化され、彼らは新たに「司法代書人」となりました。
司法代書人は、後に「司法書士」として、代書人から完全に独立することになります。

司法代書人ではない代書人は、裁判所以外の書類を作成していました。
具体的には、市町村役場や警察署などに提出する書類などですが、その他公的機関に提出しない民間の書類(遺言書や契約書など)も作成することができました。
特に法律的ではない書類なども(例えば履歴書やラブレター)、依頼があれば作成していたようです。

彼らは、司法代書人と区別するため、「一般代書人」と言われていましたが、司法書士制度ができてからは、行政代書人や行政書士と呼ばれるようになりました。
「司法(裁判所など)」に対して「行政(一般的な役所のほとんど)」だ、ということでしょうか。
戦後、法律(行政書士法)ができて正式に「行政書士」となりました。

ここまで、代書人から、行政書士と司法書士の2つが生まれた歴史を見てきました。
その後の展開についても見てみましょう。

行政書士は、行政書士法ができてからは、司法書士の扱う登記や裁判書類、その他税理士・社会保険労務士など、他の専門職のみが扱う業務は扱えないものの、基本的にそれ以外の書類は全て作成できることから、その幅広さを特徴として活躍してきました。
名称の示すとおり、広く「行政」手続き全般を扱う専門職でありつつも、代書人時代からの伝統で、広く「民事」の書類も作成できるところが特徴です。

例えば、車で言えば、乗用車の車庫証明1台分から、大きなクレーン車を何台も動かしたり使ったりする手続きまで。商売で言えば、軽トラック1台の運送屋さんの届け出から、大きな運送会社の営業許可申請まで。
民事の書類で言えば、10万円の借用書から、1億円の遺産分割協議書まで、実に様々な書類を作成し、手続きを行うことができます。

司法書士は、主に「登記」手続きの専門家として長く活躍してきました。裁判所や検察に関する書類も作成することができます。
反面、遺言書や、登記に関係のない相続の書類などは作成できず(それらはもともと一般代書人の業務範囲)、従来から行政書士の仕事でした。

しかし、近年、司法書士は書類作成に止まらず、簡易裁判所での代理や、財産管理を行うことができるようになったことで、権限が大きく広がりました。この権限に基づき、遺言や登記に関係しない相続手続きなども行えるようになりました。
また、借金・ローンの過払金請求などで司法書士が活躍しているのを、ご存知の方もいらっしゃると思います。

行政書士のほうは、民事における限り、直接的な代理権はありません(民事の相手方と交渉したりはできない)が、代書人時代から続く伝統のとおり、従来と変わらず幅広く書類作成が行えますし、法的紛争がなければ、代理人として合意書類(契約書など)を作成することもできるようになりました。

結果として、行政書士・司法書士どちらの看板にも、遺言や相続手続などが書いてある、ということになるわけです。

もちろん、それ以外の業務では、お互いに専門業務があり、先ほど例に挙げた車両の手続きや、商売・営業上の手続きなどは行政書士にしか行えませんし、登記は司法書士にしか行えません。

このように、私たち行政書士を含め専門職は、法律でできることとできないことが決まっているため、ご依頼の内容によっては、他の専門職(税理士・司法書士など)と連携し、それぞれの業務分野を生かして対応する必要があります。個々の具体的な事案について、誰が何をできるのかについては、お近くの行政書士など専門職にお尋ねいただければと思います。

日本行政書士会連合会ウェブページ