この領収書、印紙は必要?(印紙税の話)

 

消費税が増税されてから、ひと月が経ちました。
消費税増税のかげでひっそり(?)というわけでもないのですが、印紙税法も改正されています。今回は、その話も含めて、この印紙税について少しお話したいと思います。
印紙(税)、と言ってぱっと思いつくものと言えば、多くの方が「領収書に貼る印紙」とお答えになるのではないでしょうか。そうです、あの印紙(税)です。印紙税自体は領収書だけでなく一部の契約書なども対象で、今回の改正では「不動産譲渡契約書」および「建設工事請負契約書」の印紙(税)についても変更がありましたが、ここでは皆さんにとってより身近な領収書に貼る印紙についてご説明したいと思います。
以前から「3万円未満の領収書には印紙を貼らなくてよい」 ということになっていますが、これは、皆さんよくご存知かと思います。
これが4月1日以降に作成した領収書は、従来の3万円未満の範囲が拡大されて、
「5万円未満の領収書には貼らなくてよい」 ということに変更されました。領収書は数としては少額のものが多いでしょうから、それなりに影響があるのではないかと思います。
なお、以下の扱いは従来どおりですが、ついでにまとめておきます。
・領収書の金額には、消費税額を含めないで考えても構いません。
・そのためには、税抜き金額と消費税額がはっきり分かるように記載してある必要があります。
・記載は「うち消費税額等8%を含む」などとせず、例えば「商品販売代金48,000円、消費税額等3,840円、合計51,840円」というように金額そのものを書きましょう(この例では、消費税額が明らかですからその分は金額には含めず、48,000円となり、印紙を貼る必要はありません)。
・消費税を納税しない事業者についてはこの方法は使えません。
・印紙の額は従来と同じです。


消費税が初めて導入されたのは平成元年ですが、このときにも印紙税法は同時に改正されています。その際、一部の契約書などが非課税になりました。
もっとさかのぼると、1624年にオランダで採用されたのが印紙税の始まりです。当時のオランダは八十年戦争の戦費調達のため、何かうまい方法はないかということでその案を募集したところ、ヨハネス・ファン・デン・ブルックという税務職員から印紙税のアイディアの応募があり、これが採用されました。
これは「重要な文書にはスタンプを押させ、その際税金を納めてもらう」というもので、国民に重税感を与えず税金を徴収できるというので、オランダに留まらず、欧州各国に広まって行きました。かのアダム・スミスも「人民からうまく集金する方法というのは素早く輸出されるものだ」というようなことを書いています。(*)
日本ではどうでしょうか。我が国で印紙税が始まったのは1873年(明治6年)で、ちょうど江戸時代の年貢から、近代的な税制度への移行に邁進していた頃ということになるでしょうか。理屈としては、「印紙税は、欧州各国で実施されているもので我が国もこれを取り入れた。主として商売に課税し、農(土地)への課税とのバランスを取るためのもの。」と説明されています。(*)
主として商売に課税するというのはどういうことかと言いますと、印紙税自体は文書(領収書や契約書、その他特定の文書)そのものに対しての課税なのですが、文書を作るというのは何かの取引(商売)のために作られることが多いだろうということで、文書に課税することを通じて、実質的にはその裏にある取引やその利益等に対して課税しようというわけです。この考え方自体は現在でも同じです。
こうしてみると、そもそもは徴税方法ありきの制度だったようですね。ただ、その方法自体が画期的で、広く薄く、また手間なく課税できるため、日本を含め、各国で導入されたということだろうと思います。
しかし現在では何も文書を通じて課税しなくても、その裏にある取引やその利益等に対して課税できる様々な税制度が機能しています。そういう理屈で言えば、印紙税は二重取りなのではないか、という批判もあるようです。
また、電子文書は課税されないことになっています。つまり紙の文書だけが課税されているのです。また現在はコンピュータやネットワークの普及が進んでいますし、その技術も日々どんどん進化していて、電子商取引というのもできるようになってきています。これらが増えるに従って、法改正など何らかの対応が必要になってくるのかも知れません。
株式会社等を設立する場合、定款という文書を作るのですが、先ほど書きましたように電子文書は課税されませんので、電子で定款を作れば、印紙税を節約することができます。この電子定款の作成は私たち行政書士の業務でもあり、それぞれの会社に合わせて法律上正確な内容で作成することはもちろんですが、専用のソフトや電子署名などを使って、有効な電子定款として作成しています。
では紙の文書(契約書等)が全く時代遅れかというと、今のところまだまだ紙の文書は主役だと言えるでしょう。特に、印鑑を押すという日本の習慣から、契約書をメールのやり取り等で済ますというわけにもいかないのが現実ではないでしょうか。
今現在、紙で文書を作成し、それが印紙税法でいう課税文書に当てはまるならば、必ず決められただけの印紙を貼らなくてはいけません。一枚二枚ならまだしも、枚数が増えてくると、印紙の額も結構な額になりますから、何とかならないものかと感じる方も多いでしょう。かと言って、過度な節税は脱税につながりやすいので、よく研究の上で注意して行うべきです。
逆にきちんと印紙が貼ってあると、いかにも「本物の」文書であるという印象を与えることはあるかも知れません。万が一印紙を貼っていなくても(税金の問題は発生するとしても)文書としての有効性は失われないのですが、どうしても人間が相手となると(特に相手からハンコをもらう場合など)、そういう感覚的なものを完全に無視することができない場合もあると思います。
いずれにしても文書の作成と管理は、正しい印紙税の知識を持って行うべきだと言えます。
最後に、税金といえば税理士ですが、印紙税に関しては税理士法に規定がなく、誰が印紙税の専門家であるという決まりはありません。印紙税は、特定の文書に対して課税するという方法であるため、公的手続や法的な文書(契約書等)作成の専門家である行政書士も、印紙税とは日常的に関わっています。
*参考文献
鵜野和夫(2013)『コンサルティングを行う実務家のための 必携不動産税務』清文社